GPS

暑いですねー。

私の事務所は通りに面したビルの3階なのですが,通り側のベランダの目の前2メートルほど先に電信柱があり,入居通所から眺望(大したものではないですが)を邪魔していることを勝手に不満に思っていたのですが,最近はここに蝉が張り付いていて,日中になるとウルサいのです。たぶん,シャーという鳴き声なのでたぶんクマゼミで,アブラゼミのような力んだ声ではないのですが,それでもかなり暑苦しさを感じるので,この夏,先が思いやられます。蝉のいないところに行きたい・・・。

 

さて,妻や元交際相手の自動車にGPS発信機を取り付けて移動場所などの情報を取得した行為がストーカー行為規制法で規制されるストーカー行為の「見張り」に該当するかが争われた裁判で最高裁判所が判決を下しました。最高裁は,「見張り」に該当するというためには,「機器を使う場合でも、相手の住居の付近といった一定の場所で、そこにいる相手の動静を観察する行為が必要だ」としたうえで「移動する車の位置情報は「一定の場所にいる相手の動静に関する情報」とはいえない」との判断を示し,単にGPSを使って所在や動静を遠隔監視するだけでは「見張り」に該当しないとしました。

平成30年(あ)第1528号↓

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/610/089610_hanrei.pdf

平成30年(あ)第1529号↓

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/611/089611_hanrei.pdf

 

GPS最高裁というと,平成29年に,警察官が裁判所の令状を取らずに,事件関係者の自動車にGPS装置を取り付けて所在や立ち寄り場所に関する情報を取得したことについて,「車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査であるGPS捜査は,個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であり,令状がなければ行うことができない強制の処分である。」と判じた判決を思い出します。

平成28年(あ)第442号

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/600/086600_hanrei.pdf

もちろん,今回の判決は被告人の行為が犯罪構成要件に該当するか,という罪刑法定主義の観点から犯罪の成否が問われているので厳格な文理解釈が求められる局面ですから,捜査機関による違法な人権侵害が問題となった平成29年判決とは求められる価値判断の基準が異なりますし,最高裁の判断は結論においてバランスのとれたものといえるでしょう。

なお,最高裁が,第1258事件で,「被告人は,妻が上記自動車を駐車するために賃借していた駐車場においてGPS機器を同車に取り付けたが,同車の位置情報の探索取得は同駐車場の付近において行われたものではないというのであり,また,同駐車場を離れて移動する同車の位置情報は同駐車場付近における妻の動静に関する情報とはいえず,被告人の行為は上記の要件を満たさない」として,位置情報の取得場所や対象自動車の位置と,GPS機器を取り付けた場所との近接性を判断基準としているように思われるので,近接性の範囲をどの程度とするかによって,「見張り」に該当するか否かの結論は変わり得るとは思います。

また,他人の自動車や所持物にGPS発信機を付着させてその位置情報を網羅的に取得する行為はプライバシー権を侵害する行為であり,不法行為として損害賠償請求の対象となることも争いがないところだと思います。