組織犯罪なの?

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IR汚職事件で,衆議院議員が証人等買収容疑で再逮捕されました。

自分が収賄罪に問われている事件で贈賄側の相手を買収して口止めするようなことは,「してはいけないこと」だよな,とは,なんとなく常識のように思いますが,実は,この「証人等買収」という犯罪は刑法上の罪ではなく,「組織犯罪処罰法」(正式名称は,「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」)という法律が,2017年に改正されて創設された犯罪です。

この法律ができるまでは,自分が罪に問われている事件の証人を買収しても,その証人が実際に嘘の証言をしない限り,罪には問われていませんでした。「本当か!?」と思われるかもしれませんが,本当です。いろいろ理屈はあるのですが,「自分が罪に問われているんだから,証人を買収しようとしてもそれは心情的にやむを得ず,責任は問えませんな」という価値判断からのようです。

ところが,世界で頻発する組織的な犯罪やテロが,2020年の東京オリパラの開催を契機に日本でも起きるのではないか,国際犯罪などを各国の協力で防止するための「国際組織犯罪防止条約」に日本は未加盟であり,テロ等の未然防止のために,法改正を急がなければならない,と日本政府が強力に進めた結果,2017年に「組織犯罪処罰法」にテロ等準備罪を創設されました。そして,その際に,組織的な犯罪における証拠隠滅を防止するために,この証人等買収罪も創設されたのです。証人等買収罪では,買収行為だけでも処罰の対象となり,従来のように証人の偽証を要しないという点がポイントです。

しかし,この証人等買収罪の規定(第7条の2)を見ると,殺人罪などの重い犯罪や贈収賄罪などの単独実行が可能な犯罪についての証人買収も処罰の対象となっています。つまり,この規定により,「組織犯罪における司法妨害の防止」のためと政府が説明している法改正の趣旨を超えて,証人買収を広く処罰できるようになってしまっているのです。

その結果,「証人等買収罪」の創設後第1号適用事件は,今回の衆議院議員による買収事案となりました。

この議員もおそらく与党議員としてこの法改正に賛成はしているのでしょうが,まさか,第1号適用事件で自分が逮捕されるとは思ってもみなかったでしょうね。自分がテロ事件に関与するなどとは想像もつかなかったでしょうから。

今は,留置場で,こう思っているのではないでしょうか。

「これって組織犯罪なの!?」